花競べ 向嶋なずな屋繁盛記 (講談社文庫)

江戸向嶋に、「なずな屋」を営む、花師・新次と女房・おりん。彼らを取り巻く人間模様が楽しく、どんどん読み進められました。幼馴染の留吉、その女房・お袖。ご隠居・六兵衛、その孫の辰之助。縁あり共に過ごす雀、雀の母親と養父。後に辰之助が愛する花魁・吉野。松平越中守定信など。それぞれが潔く、物事を受け入れ。時には暖かく見守り、ここぞという時には強く背中を押す。暖かい人の出会いと別れ。かつて、修行していたところのお嬢さん（理世）と再びめぐり会い、心の想いをぶつけ合う新次と理世。しかし、そこにはけじめをつける愛情がありました。理世の別れの言葉が、私は好きです。前に向かって進む。過去は二度と振り返らない、強い覚悟の生き方。花も木も、素敵に描かれています。桜草に寒天と木箱の取り合わせ。花競べに出した、新次の「紫式部」と理世の「錦繍衣」。門外不出の桜。人間模様、花あり木あり、美しい花火あり、そして吉原の炎上。辛い別れのあとの、辰之助の選択も見事でした。ラストの雀の生き方も、迷いなく。清々しさが残りました。日々是好日さんに、ご紹介頂いた本でした。心に残る１冊になりました。私も、しばし江戸の風に吹かれてみたくなりました。